関西現代俳句協会

2005年9月のエッセイ

青伊香保

伊丹 三樹彦


出湯の香にかんばせ和む 青伊香保  三樹彦

 僕にとって14基目の句碑である。これはNHK学園伊香保俳句大会の講演に招かれたのが基盤となり、伊香保温泉観光協会と伊香保町での建立となった。初めて箱根を越えた句碑である。

 場所は、文学の小径の高台にあり、榛名山へのロープウエイのりば「まちの駅」の真正面の見晴らしの良い立地条件である。千明(ちぎら)観光協会長をはじめ建立の地元要人と共に幕を引いた。この日の前橋放送のテレビニュースともなった。背後には大楓の青葉、谷からは夏鶯、山からは時鳥が啼いていた。

 僕は写俳亭を名乗っているが、その名の通りフィルム型のモダンな句碑である。しかも、印度産の黒御影石で類例なきデザインに拍手喝采を浴びた。

 此処、伊香保に湯が湧き出たのは、かれこれ2000年もむかしとか。榛名火山系の山腹にあり、水上・草津と並ぶ上州屈指の温泉として栄えてきた。その永い歴史は、古くは万葉集や古今集の歌にも詠まれている。明治に入り蘆花・夢二・与謝野晶子をはじめ関東の多くの文人等が訪れ、保養地としても親しまれてきた。このように文芸にゆかりの深い湯の町を、地元観光協会はより多くの人々に親しんで貰おうと「俳句の町伊香保」の定着を願い、平成より句碑建立の事業が推進されてきた。既に上田五千石・金子兜太・鈴木真砂女・鷹羽狩行・岡本眸・鍵和田柚子・深見けん二・平井照敏等、関東在住俳人の句碑が点在している。伊丹三樹彦句碑はこの地の9基目の句碑である。

伊香保一夜吟〔30句〕より

 夏の月より白々と 湯浴みの四肢   三樹彦

 夢二好みの和装洋装 伊香保は梅雨

 石段街登る水無月 出湯へ 句碑へ

 簾巻く 妙義連山迫るからに

 岩燕飛ばし 背山の名は榛名

 俳客に ゲンコウカケタカ 時鳥

 帯を解く音の気配の 鮎の宿

 出湯に浮くは 句作七十年の臍

 昭和遠し 情死太宰の桜桃

 青梅雨の宿を照らすは 石燈籠

以上

(本文及び俳句の表現で、ふりがな表示が括弧書きになっているのは、インターネット・システムの制約のためです。ご了解ください・・・事務局)