2008年 3月のエッセイ 暗峠定点観測湖内 成一 芭蕉が大坂との往復に越えたのは暗峠、鞍すなわち馬に乗らないと越えられない急峻な坂道だというのは、今でも大阪側から登れば実感できます。 2000年5月のゴールデンウィークに、前年の交通事故からの回復具合を試そうと暗峠を越えて見ました。そして景観から体力まで、同じ時期に同じ場所で観測して違いを楽しもうということで、定点観測と称して毎年このタイミングで峠を越えています。 近鉄奈良線枚岡駅から枚岡神社を抜ければ峠の入り口になります。そして車一台がやっとの幅のこの道は実に国道308号線と表示されているのです。 芭蕉句碑を起点にして、急峻な道を登るとやがて道の左右にひっそりとした花の群が見られます。よく見ると上向き壷状で紫の花の先から長いひげが延びているのが特徴です。図鑑で調べると「浦島草」とのこと。この花の先の長いひげを浦島の釣竿の先の糸に見立てたといわれると命名の見事さに感心します。 峠の頂上への直前で「ほととぎすの里」との標識で左折し、大変な細径へ。この径も浦島草の径。抜ければ数軒の家と寺からなるほととぎすの里。大阪を眼下にほととぎすを楽しめます。 この里の、滋光寺裏の八重桜と椿が並び咲いているか、椿だけになっているかというのを、その年の春の気候を思い起こしながら違いを楽しみます。 ここから右へ山道を抜けるといきなり暗峠の石畳に出ます。ここでも大手毬や八重桜の咲き具合が年毎に違うことを愉しみます。
石畳の道の一番東に並ぶ峠の茶屋は、この店だけ東大阪市ではなく生駒市とのこと。葱焼とビールをたしなみ、門前の八重山吹の咲き具合の違いを確かめます。山吹も結構気候による変化が大きいようです。奈良側への下りでは棚田の景色を楽しめます(ここを、歩いての登り道に使うのは変化に乏しいのでお勧めできません)。途中で左折して、生駒山の中腹の広い道を近鉄生駒駅へと、だらだら北へ降りて行きます。 以上は最初の年のコースですが、スタート地点やコースは毎年変えようと探索しています。定点観測としては、浦島草、うぐいすの里、峠の茶屋の三点は必須のポイント。毎年同じ時期に当日朝の天候を見てから出かけています。連休をグリーン・ウィークと改名する動きがあるようですが、そうなればこの径への吟行が増えるかも知れませんね。 よくしゃべる河内里人ホトトギス 成一 峠とは鞍なすかたち照り山吹 成一 以上 ( 例月の本文及び俳句の表現で、ふりがな表示が括弧書きになっているのは、インターネット・システムの制約のためです。ご了解ください・・・事務局) |