関西現代俳句協会

2013年11月のエッセイ

アイドル見物

岡村 知昭

 駅前のショッピングモールへ買い物に出かけてみると、店内には本日のイベントを告知するビラがあちらこちらに貼ってあった。なんだろうと見てみると、その名を聞けばだれもが知っている、とあるアイドルグループのメンバーのひとりがトークショーを行うというのである。

 このトークショーに出演するメンバーの彼女が、地元の出身ということでの企画のようなのだが、前もって決まっていたら事前に店内の案内や、チラシなのでの広告などでの告知がされていないはずはないので、どうやらイベントの開催は急に決まったものらしい。

 その地元出身の彼女は、大人気アイドルグループの中では、あまり表舞台に出てきているというわけではないようであるのだが(ここまで書いてしまうと彼女がどこのグループの誰なのか、わかる人はもしかしたらいるのかもしれませんね)、ただいま活躍中のアイドル、それも私と同郷であるという人を生で見られるという機会はそうそうあるわけではない、というわけで買い物の予定を変更して、アイドルのトークショーへと向かうことに。

 トークショーの会場となる多目的広場には、まもなくの開始を待つ人たちがだんだんと集まりはじめている。その中にはいかにもアイドルファンだという風情の方々もいて、着ているものを見てみると出演の彼女の名前が大きく書かれていたりするのだが、見知らぬ私がより近づいて確かめるのも失礼なのでこの方々からは遠ざかる。イベント途中でいつでも抜けられるようにというのを考え、私はステージから少し離れたところに座ることにする。

 買い物の途中で気づいてやって来た人も含めて、会場は人が膨れ上がるとまではいかないながらも、集まり具合は悪くない感じになっているようだ。そうこうしているとまずはトークショーの司会を務める女性が登場、今日のトークショーの流れと諸々の注意点について会場内に伝える。「カメラ撮影はご遠慮ください」とのところは何度も繰り返していたのだが、たぶんいざはじまったら止められはしないだろうな、と思いながら聞く。

 そしていよいよアイドル登場のとき。彼女の名前を入れた扮装の方々の気合も最高潮。舞台裏からご本人登場の瞬間に響きわたる拍手と歓声。慣れてない場ではあるが、とにかく拍手。

 このショッピングモールは実家から近いので、よく遊びに来ていたんですよ、と切り出した地元出身の彼女。なんでも14歳のときにオーディションで受かったのをきっかけに上京して、もう7年になるという。グループの内外での厳しい競争をくぐり抜けてきただけあるのか、立ち姿には自信がみなぎっているように感じられ、語り口にも落ち着きがある。はじめて彼女を生で見る私からしても「さすがだなあ」と思わせるだけのものはある。

 トークショーは順調に進む中、通り過ぎる買い物客たちが何ごとかとのぞきこんでいる。中には「え、誰この人? 知らなーい」「こんな人グループにいたっけ?」との遠慮のない声も聞こえてくる。もちろん舞台上の彼女にもそんな声は届いているはずだが、彼女から笑顔が絶えることは決してない。

 アイドルになろうと上京して7年間、ファンの歓声だけでなく周りからの嫌な声もたくさん耳にしていきながら、彼女は鍛えられてきたのだろうな、なんて思っているうちに、そろそろトークショーは終盤を迎えようとしている。彼女の笑顔は、相変わらずだ。

(以上)

◆「アイドル見物」:岡村 知昭(おかむら ともあき)◆

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