関西現代俳句協会

2015年8月のエッセイ

豊かな時間

西谷 剛周

 

 一面のれんげ田に入り、紫雲華を摘む人、句帳を片手に寝転ぶ人、鴉の豌豆や雀の鉄砲で草笛を吹く人と、思い思いの格好の俳人があちこちに。その内の一人、紫雲華に埋もれて大の字に寝ているのが坪内稔典代表。それを横目に私は、3カ月かけて造った石窯に薪を入れる。2時間焚き続けた窯の温度計は300度を越えたところ、ピザを焼く400度にはあともう少し。傍のれんげ小屋では、エプロン持参の「船団」の皆さんがピザと鯛の塩釜の下ごしらえ。幻の皆は、大峰山の行者宿で有名な洞川の朝採りのここみの天婦羅の準備と大忙し。揚雲雀に混じり、鋭い鳧の鳴き声。西に三室山、北の竜田山の稜線切れるあたりに、法隆寺の五重塔の九輪が見える。

 坪内稔典代表の「船団」と私の「幻」との「呑んで食べてちょこっと句会」というれんげ句会は、ここ数年続いている。紫雲華田は、寝転ぶと埋もれるくらいの背丈に。参加者は30人。他の俳句結社との合同句会は、マンネリになりがちな句会に緊張感を与えるとともに、選句にも自然と力が入る。

 各々の選句が終わると、披講の前に昼食。 大きなテーブルに、焼き立てのピザや鯛の塩釜、昨日夫婦で釣って来た鯛やカンパチ、メジロ、ソイの造りが並ぶ。まずは、坪内稔典代表の鯛の塩釜割りから始まり、生ビールで乾杯。余所余所しかった会話も、酒が進むにつれ活発に。締めは、竈で炊いた桜鯛の鯛めし。

 少し酔いが回ったところで、披講、選評となるのだが、真面目に句会をしている方には、なんと不謹慎と思われるだろうが、これがまた良いのである。何せ作者不明のままの選評は、酒を呑んでいるせいもあって、手加減のない批評と、それに臆せず反論する者と、場は一気に盛り上げる。中には「こんな小学生のような句はあかん」という猛者もいるが、そんな時は「そう言うあんたの句は」と、やんわりブレーキをかけるのが、仕切り役の私の役目。

 句会が済むと、外のテラスで呑み直し。栄螺の壺焼きと、この日の為に作ったししゃも・鶏の胸肉・茹で卵の燻製が並ぶ。呑めない人には、石窯で30分掛けた焼き芋、外はカリっと中はジューシーと絶品。

 稔典代表は、産経新聞の連載「モーロクのススメ」の中で私のことを、「たった一日の遊びのためにげんげ畑を作る酔狂な人、変人だが、変人が増えると世の中が快適になる」と紹介されたが、実はそれが私の楽しみなのである。毎年違う趣向・メニューを考え、皆の喜ぶ顔を思い浮かべながら、その為の設備を造る。石窯・燻製釜・竈もその一環。

 俳人と酒を呑むのは実に心地いいが、これは私が地方議員として20年間選挙を戦ってきた反動かもしれない。体力の続く限り、これからも多くの俳人と豊かな時間を共有したいと思う。

 今年のれんげ句会の様子は、インターネット「幻俳句会 れんげ句会」で検索を。

     思い切り吹いて草笛そそと鳴る       剛周

(以上)

◆「豊かな時間」:西谷剛周(にしたに・ごうしゅう)◆

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