関西現代俳句協会

2023年5月のエッセイ

古文書を学んで

片岡宏子

 日々の暮しにお寺は身近で、春は桜、初秋の松風、そして休憩所での憩いと世界遺産の町に住まう幸せを感じています。
 太子以来から受け継がれ記録として残された古文書を、「古文書・古記録を読む会」で学んでいます。
 主宰される河野昭昌先生は「幻」主宰の西谷剛周先生とも親しく「げんげ小屋」でお酒を友として笑談されます。
 『聖徳太子伝古今目録抄』、『嘉元記』は法隆寺献納宝物として東京国立博物館に収められ、斑鳩町立図書館・聖徳太子歴史資料室で閲覧できます。
 『古今目録抄』は荻野三七彦先生による翻刻を読んでいます。
 鎌倉期の法隆寺僧顕真の作で、法隆寺と聖徳太子の歴史の伝承を伝えています。
 『嘉元記』は法隆寺と近隣の村落の動きを数十年にわたり記録したもので、人々の生活や盗みや犯罪などの事件が興味深く記されています。

 令和3年4月3日から5日は「聖徳太子御遠忌1400年」でした。
 中門には真新しい道が造られ、山内は幡が飾られ、会場となる大講堂の前庭に椅子が並べられ法要の重々しさが感じられました。
 『法隆寺友の会』の会員として招待状を頂き感激にひたりました。
 1日目は古式ゆかしい御練り、2日目はあいにくの雨でしたが堂内に響く声明、玉砂利を打つ雨音、楓の緑に一層の厳かさを感じました。
 3日目の舞楽「蘇莫者」は聖徳太子が椎坂で竜笛を吹くと山神が表れ舞った。
 それが法隆寺建立の勝地の伝承です。(出典は先の『古今目録抄』です。)
 聖徳太子が橘寺の推古天皇の宮へ詣でる太子道へと繋がると考えられます。

 斑鳩の光と風に憩うこと数日、4月27日から奈良国立博物館で「聖徳太子1400年御遠忌記念特別展・聖徳太子と法隆寺」が開かれました。
 太子の一生を描いた絵殿十面が一挙公開されました。
 南北朝期重懐とされる『太子伝見聞記』の場面も多く描かれ、剥落も見られましたが細やかな描写や残る色彩に驚くばかりです。
 同じく公開された夢殿の絵殿は色彩鮮やかで精緻に模写され、太子のご一生が輝きを放っていました。

 見学を終えて感じますことは、大切に守られた古文書、古記録を学ぶ難しさ、苦しさを越えて『鳩遊』通巻号に発表する喜びです。
 いま仏像や建造物等々を真近に見学出来ること、そして文化財を守るためのたゆまない人々の努力を心に刻んでいます。

 今年、太子の御命日(聖霊会)の吟行が3月22日、斑鳩吟社の代表も兼ねられる西谷剛周先生の主催で開催され、斑鳩に伝わる業平道・業平姿見の井戸、藤ノ木古墳や古い町並みの西里をご案内頂きました。
 西里には宮大工の方が多く住いされ二条城の建設にも携わった人も輩出したことを説明して下さいました。
 また西里は『嘉元記』にも寺中として顕れ法隆寺に奉仕する家筋があり、お寺との関係が深い在所であったことが窺がわえます。
 そして法隆寺境内の正岡子規の句碑は大正5年9月に建立され、「法隆寺子規忌」が継承され今年で108回を迎え、9月の大会に向けてご尽力されています。

(以上)

◆「古文書を学んで」:片岡宏子(かたおか・ひろこ)◆

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