関西現代俳句協会

2023年8月のエッセイ

詩になる言葉の法則性

斎藤よひら

 会社でコピーをするとき、用紙サイズは大抵A4を選ぶ。次にA3、B5、そして稀にB4。
 ところが、俳句に詠むならどの用紙サイズが良いか考えると、使用頻度の高いA4などではなく、普段あまり使用することのないB4を詠みたくなるから不思議だ。
 世間一般での使用頻度が減ったことで、ただの用紙サイズを示す言葉でありながら、B4という言葉は湿度を帯び、詩の空気を纏ったように思う。
 同じく使用頻度が低いという点でいえば、普段まずお目にかかることのないB7のようなサイズもあるが、B7は多くの人々の日常に存在しないため、共感性が低くなってしまう。
 A4ほどメジャーではなく、B7ほどマイナーでもない、その中途半端さがB4という言葉に情緒を与えているのではないだろうか。

 それでは、中途半端なものが詩になるのではないかという仮説に基づき、そもそもあまり短詩で見かけない用紙のサイズではなく、短詩や歌詞で見かけることのある体温を表す言葉で検討してみたい。
 体温を表す言葉としては平熱、高熱、微熱あたりがよく使われるが、まず現代俳句協会の「現代俳句データベース」で検索をかけてみた。
 すると結果は平熱が0句、高熱が2句、微熱が11句であった。
 例句が少なかったため「歌ネット」というサイトで日本の楽曲の歌詞に使用されている例も調べてみた。
 結果は平熱が56曲、高熱が47曲、微熱が801曲で、俳句でも歌詞でも微熱の使用例が多いことがわかった。
 B4と同じ理論で、普段通りの平熱や異常事態の高熱と違い、中途半端で少しだるさを感じる程度の微熱が詩には使いやすいのだろう。

 ところが、信号の色は体温と同じ結果というわけにはいかなかった。
 青信号と黄信号と赤信号なら、中途半端なのは黄信号。
 しかし、「現代俳句データベース」では青信号が3句、黄信号/黄色信号が1句、赤信号が2句。
 「歌ネット」の歌詞検索でも、青信号が100曲、黄信号/黄色信号が33曲、赤信号が272曲と黄信号は不人気だった。
 この結果により、「中途半端なものを詩に使いたくなる」という私の仮説はふたつ目の検証で見事崩された。
 確かに、信号に関しては私自身もこの中なら黄信号を一番には選ばない。
 青信号の前向きさや爽やかさ、赤信号の「止まれ」のメッセージ性や赤いライトの危険な雰囲気の方が取り合わせやすいと感じるからだ。
 黄信号には警告や注意喚起のイメージがあるため、詩というよりは標語のような印象を与えてしまうように思う。

 このように、今回検討しなかったもの以外でも同じジャンルの言葉の中で特に詩に使いやすい言葉というのは存在するはずで、私たちは作品を作る中でそれらを無意識に選んだり、あえて使いにくいものを詩にしようと試みたりしている。
 そこに明確な法則性があるかどうかは分からないけれど、一度俳人・歌人らにアンケートでもとって結果を眺めるだけでも楽しいかもしれない。

(以上)

◆「詩になる言葉の法則性」:斎藤よひら(さいとう・よひら)◆

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