関西現代俳句協会

2023年11月のエッセイ

晩年を楽しむ

神田和子

 「名作を楽しむ会」を主宰して7年目に入った。きっかけは近くの友人から「何か知的なことをしたい」と声をかけられてサークルを結成したのである。
 名作を味わい、脳を活性化し、健康寿命を延ばし、楽しいひと時を過ごそうと目標を掲げて、2017年9月に発足した。月1回「百人一首」の鑑賞から始め、以降近現代詩、短歌、小説・物語と現在に至っている。

 「百人一首」は孫とカルタをするが、内容がよくわからないという声に応えて、鑑賞から歌の背景・作者などを教材として準備した。音読を繰り返し、プリントを説明していくうちにいろいろな意見質問を投げかけられ、シニアの学習意欲に驚嘆した。したがって、毎回教材を作るのが楽しくなってきた。中高の教科書に載っていない歌などそれぞれの深さに感嘆し味わいを深めるようになっていた。特に自然の歌よりも貴族の愛憎や嫉妬など、現代と同じ下世話なことに興味はとどまることを知らず3年近くかけ百首を学び終えたのである。その時のサークルの皆の満ち足りた顔がいまだに思い出され、私自身体が熱くなる。
 また、毎回百人一首かるたをやっているが、1年もたたないうちにずいぶん取るのが速くなった。なぜなら、回を重ねるうちに皆の「知りたい」「学びたい」という意欲が強くなっていたのである。私にとっては教材を作る苦労が吹き飛んでいく情景でもあった。

 続いて近代現代の詩を取り上げた。中高時代の懐かしい詩や長編詩も紹介した。
 2年近くの中で、一番盛り上がったのは『智恵子抄』だった。光太郎と智恵子の人間として、夫婦としての生き様が人生経験豊富な皆には新鮮に映ったようであった。現在彼らが生きておればどのような発信をするのだろうか等々、白熱した意見が出され、学習は続けて4回に及んだ。
 詩の音読や筆写も積極的で、好きな詩の朗読時の紅潮した皆の顔が脳裏に焼き付いている。
 同様に星野富弘の詩画集と『愛、深き淵より』の時は、富弘が詩画にたどり着くまでの過程に心を震わせ、自らの半生をしきりに反省していたことを思い出す。

 短歌の時も同様に数ある中で茂吉の「死にたまふ母」などに大きな関心を示したが、啄木の短い波瀾に富んだ人生や晶子の『みだれ髪』の歌が心に沁みたようであった。

 現在は小説物語を紹介しているが、森鷗外の『高瀬舟』では護送役人の心情の動きに関心が集まり、それぞれ深読みする姿が頼もしかった。また、井伏鱒二の『黒い雨』では、自らの広島での被爆体験を初めて吐露してくれた会員の勇気に胸迫るものがあった。

 辞書を駆使して作っている脳トレ問題も好評で、発足の目標である文学を味わい、脳を活性化し、健康寿命を延ばしは確実に進んでいると考えている。

 「名作を楽しむ会」は今の私にとって人生を彩る力となっている。「勉強になったわぁ」「楽しかったわぁ」と帰っていく会員の声に生きがいを感じ、勇気づけられている今日この頃である。つまり、この会は私の晩年を十分に楽しいものにしてくれているのである。

(以上)

◆「晩年を楽しむ」:神田和子(こうだ・かずこ)◆

▲今月のエッセイ・バックナンバーへ